19日の中東政策演説で米オバマ大統領が「1967年以前の境界線を和平交渉の前提とする」と述べたことに対し、米国ユダヤ人社会の反応が分かれている。米紙クリスチャン・サイエンス・モニター電子版20日付記事から紹介する。

  • 2012年の大統領選で再選を目指すこの時期、中東政策発言にあたってオバマの脳裏には、国内のユダヤ人有権者のことがあった。2008年の大統領選ではユダヤ人の78パーセントがオバマに投票した。ユダヤ人有権者は今も投票と選挙運動の両面で、オバマの政治基盤においてかつてない決定的な位置を占めている。
  • オバマ演説に関する米国内ユダヤ人の反応は、はっきりと分かれた。アメリカ・ユダヤ人委員会(AJC)や、米国最大のユダヤ人団体である名誉毀損防止同盟(ADL)は、おおむね肯定的な評価を示した。AJCは「オバマ大統領が二国間交渉による境界確定というゴールを再確認したことを評価する」としている。
  • 一方、アメリカ・シオニスト組織(ZOA)やサイモン・ウィーゼンタル・センターは、1967年の境界に戻ることを拒絶した20日のイスラエルのネタニヤフ首相の意見に同調。ZOAはオバマ氏を「かつてなくユダヤ人に敵対的な大統領」と呼んだ。オバマ氏が大統領就任以来イスラエルを訪問していない事実も、ユダヤ人社会の反発を呼んでいる。

オバマ演説が相反する反応を引き起こす理由については、本誌7月号(530日発売)掲載の国際政治アナリスト伊藤貫氏のインタビューが参考になる。伊藤氏はオバマ氏の本質をこう指摘する。

「結局、オバマというのは理想主義者ではなくて、良く言えばクールなプラグマティスト、悪く言えば冷酷で打算的な政治屋です。(中略)世論の動向を見て、どう立ち回るのが得なのかを計算しているだけです。(中略)その政策が長期的に成功するかどうかなど考えていません。彼にとって大事なのは、来週の世論調査なのです」

政治家に確固とした政策的信念がなければ、いずれ国民に見透かされて支持を失う。旧約聖書の時代に始まったパレスチナ問題は、「来週の世論調査」を気にして対応するにはあまりに永く根深い。この問題でオバマ氏に打算を超えた定見や信念があるかどうか、クールな目で注視する必要がある。(司)

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