東日本大震災では、最大時には陸海空あわせて10万6千人の自衛官が救援活動にあたった。21日付産経新聞に、被災地から戻った自衛隊員の体験がいくつか紹介されている。その中で、宮城県岩沼市で任務にあたったある自衛官が、現場で直面した地方の縦割り行政の壁について、こんな体験を挙げている。

「懸命の捜索活動を展開していたとき、市が用意した重機はアームが短すぎることもあった。『目の前にある長いアームの重機を使わせてくれ』と言ったら、『あれは県の重機だから』という。一刻を争っていたときに」

結果的に県の重機を使わせてもらえたのかどうかは記されていないが、この短いエピソードは硬直化した官僚的思考の怖さを物語っている。瓦礫の下に埋もれているかもしれない被災者を救うのは、文字通り一秒一刻を争う事態だ。そこでとっさに「県の重機だから市としては許可できません」という言葉が出てしまうか、自分の責任問題になることも覚悟で「県の重機ですが構いません。早く使ってください」と言えるか。とまどっている数秒の遅れで、瓦礫の下の命が失われるかもしれないのだ。

市職員と思われるこの人物を非難することは簡単だが、いざ私たち自身が緊急事態に直面したら、とっさに、責任は自分が取る覚悟で人間として正しい判断と行動ができるか。公務員であるか否かを問わず、自戒したいと思わされるエピソードではないだろうか。(司)

※現在、デイリーニュースクリップは無料でお読み頂けます。近日中に有料購読に移行予定です。

【5月21日分ニュースクリップ一覧】
混沌を呼ぶ中東の「民主化」
消費増税5%の正当化に騙されるな
金総書記、訪中の狙いは
自衛隊が被災地でぶつかった縦割り行政
5月21日、世界はたぶん終わらない