中東を取材し続けているジャーナリストのトーマス・フリードマンが、5日付インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙にビンラディン殺害後初めて記事を書いている。タイトルは「さらばジェロニモ」(Farewell to Geronimo)。ジェロニモとは、白人に最後まで抵抗した北米先住民のアパッチ族の族長の名であり、米軍がビンラディンを指す暗号名だったという。以下、概要。

  • ビンラディンは同時多発テロ後10年近く生き永らえたため、自分が提唱したイデオロギーをアラブ人の若者の多くが捨て去るのを見る羽目になった。殺人とイスラムの純粋な教えに立ち返ることによってのみ手に入れられると彼が主張したもの、つまり人間の尊厳、正義、自治を、チュニジア、エジプト、イエメン、シリアなどのアラブ諸国は平和裏に手にしようとしている。
  • アメリカ人は自分たちの役割を果たし、ビンラディンを弾丸(bullet)で殺した。今やアラブ国家とムスリムたちが自分たちの役割を果たすチャンスである。それはビンラディン主義を投票(ballot)で殺すこと、すなわち本物の選挙、憲法、政党、革新的な政治を実現することだ。
  • ビンラディン主義が生まれた背景には、石油消費国とアラブ独裁者たちの悪魔の取り引き(a devil’s bargain)があった。欧米もインドも中国も石油王たちに「石油は価格を抑えて供給し続けろ。イスラエルの気にさわることはするな。それだけ守れば、我々の見えないところで国民をどう扱おうと構わない」とのメッセージを送り続けた。ためにアラブの一般国民は自由と女性の権利と教育を奪われ、自分たちが世界の中で後れているという屈辱感を深めた。独裁者たちは国民の怒りをアメリカとイスラエルに向けさせた。こうした状況からビンラディンという異常性格者、にせメシア(false messiah)が生まれたのだ。
  • これまでアラブ社会では過激派の力が強かったが、今後は穏健派も同じぐらい力を得てくることが期待できる。そうなればビンラディン主義もビンラディン本人同様、海の底で眠ることになるだろう。

ジェロニモに関する記述は文中に一言もないのにタイトルに掲げ、ビンラディンを「にせメシア」と呼ぶなど、過激なトーンが目に付く。同紙の看板コラムニストの文章だけに、アメリカ人が主観的に感じている「正義」の一面がわかりやすく表現されているのかもしれない。(司)

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