アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・マッザ上級研究員が21日付で発表したレポートで、イランに歩み寄る中国の戦略を警戒すべきだと論じている。論旨は以下のとおり。

・イラン包囲網の効果を減ずる中国のイラン関与は、アメリカとの関係悪化に備えたヘッジという意味が大きい。中国の動きはアメリカの対イラン政策への影響だけでなく、イラン情勢の行方がアメリカのリーダーシップの信頼度を左右するという点でも問題である。

・中国の石油輸入は、11%がイランからのものである。対米関係への影響を承知で中国がイランと取引を行うのは、石油輸入が滞り経済が停滞すれば、社会不安が避けられないという理由がある。また、仮に将来、台湾問題でアメリカと事を構えることになれば、アメリカは中国の石油輸入に圧力をかけることが予想されるため、イランとの友好関係はそうしたリスクを和らげる効果がある。

・中国はイランに対して武器も輸出しており、近年の取引額は減少したと見られるものの、2002年から2005年の間に1億ドル相当の武器がイランに渡ったと見られる。アメリカからの圧力にも関わらず、核技術や核原料、ミサイル関連技術などの提供も続いている。

・友好関係の一方で、アメリカがイランと交戦状態に入った場合に、中国がイランへの武器供与を拡大したり、アメリカへのサイバー攻撃などに出るとは現時点では考えられない。なぜならば、石油輸入の確保やアメリカとの戦いの回避といった、短期的な国益が優先するからである。しかし、長期的に中国がアメリカの報復に耐えられるという自信を強めた際には、この限りではない。

・イランへの関与は中国にとって石油以上の重要な意味がある。中国には歴史的にアジアの覇権国という意識があり、最近の軍拡はその地位への回帰を企図するものと考えられる。イランへの関与は、アメリカを中東に縛り付けておき、アジアでの拡張政策を進めるための戦略であると考えられる。加えて、アメリカが仮にイラン政策に失敗し、そこに中国が一枚噛んでいたとなれば、アジアでのアメリカの地位は中国の狙い通りに低下する。また、イランとの関係は、アメリカとの交渉カードにもなる。

・アメリカは、中国のイランへの関与が国益に適わないことを認識すべきである。イラン制裁への中国の自発的協力は期待できない以上、中国の参加を必要としない対イラン対策を考えるべきである。イランでの軍事作戦を検討する場合には、中国の介入の可能性も排除できないため、その軍事力にも注意を払うべきである。

中東と東アジアの情勢を左右するイランと中国だが、その連携が、両国への対応と地域の安定維持の課題を複雑にしている。中華帝国再興に向けた中国の動きは、実に戦略的である。個々の出来事への対処療法に終わることなく、背後にある戦略的計算を読み解くことが不可欠である。

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