朝日新聞はこのところ、「領土争いはむなしく、文化交流を犠牲にしてはいけない」という趣旨の記事を繰り返し掲載し、中国が不当に領有権を主張している尖閣諸島の領土問題をうやむやにしようとしている。

9月28日の紙面では作家の村上春樹氏が、「小さな島のために戦争するのは意味のないことだし、東アジアの文化圏を守るべきだ」という趣旨の論説を寄稿した。これを読んだ中国人の「返信」として、AERA(10月6日発売号)は中国人作家の閻連科(エン・レンカ)氏の寄稿を掲載。朝日新聞本社ビルに日本支社が入る米インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙もこの論説を掲載し、朝日新聞はわざわざ米紙の方を紙面で紹介した。

寄稿で閻氏は村上氏の文章に深い共感を表明している。反日デモで焼き討ちした中国人が、日々不満を感じているのは理解できるとしながらも、「死と墓。それが、戦争が普通の人々に残す帰結なのだ」と戦争の空しさを論じた。閻氏は「理性の声」が事態を鎮めるために重要であり、「ひとつの国家、ひとつの民族の、文化、文学が冷遇され消滅するとき、(領土の)面積などなんの意味があるというのか」と、領土問題のために文化交流を犠牲にすべきでないと述べている。

朝日新聞が「文化交流に国境はない」という主張を押し出してきたその意図は、領土問題をうやむやにして「日中友好の味方」であることをアピールしたいということだろう。北京の税関当局は日本から配送される新聞・雑誌を没収する動きも見せている。村上氏は自身の本が中国の書店から消えたことに「ショックを感じている」と寄稿で述べたが、村上氏や朝日新聞は「本や新聞を売らせてくれたら領土なんてどうでもいい」ということなのだろう。村上氏の寄稿も唐突でいかにも朝日新聞の言いたいことを代弁させているかのようだったが、今回も閻氏に寄稿を"依頼"したやらせ記事である可能性が高い。

閻氏の論説を紹介した朝日新聞の記事は、「文化と文学は人類の絆」という見出しを掲げている。しかし、現在の中国は表現・言論の自由を抑圧する独裁国家であり、閻氏の作品も発禁処分の対象となっていることを忘れてはならない。言論弾圧を改めるよう中国政府に促すことなしに、「文化は人類の絆」と表面的な主張をするのは偽善でしかない。自由な表現・言論活動ができてこそ初めて、文化や文学を介した「人類の絆」は生まれるのである。

朝日新聞の意図する通り、尖閣問題を曖昧にして見せかけの「日中友好」を進めるなら、軍拡著しい中国はやがて沖縄やその他の日本領土にまで触手を伸ばしてくるだろう。日本が占領されれば、中国の言論弾圧の下で日本文化は失われていくことになるが、朝日新聞はそれでも構わないのだろうか。村上氏の言う「東アジア文化圏」が、独裁中国の軍門に下ることであるなら、断じて願い下げである。

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