橋下「維新の会」は、幕末の水戸藩? - 編集長コラム

2012.03.24

橋下氏は、現代の坂本龍馬というより、むしろ四賢候や水戸藩主・徳川斉昭の立場に近い。

2012年5月号記事

編集長コラム

橋下「維新の会」は、幕末の水戸藩?

橋下徹・大阪市長率いる「大阪維新の会」が、次期衆院選の公約「船中八策」(以下、維新八策)の論議を進めている。果たして、橋下氏らが「維新」を起こすのだろうか。

維新八策は、龍馬の船中八策と正反対

維新前夜に坂本龍馬が考えた「船中八策」の主眼は、富国強兵のために中央集権体制をつくることだった。

1853年、ペリーは砲艦で脅して開国を迫り、日本が従わなければ琉球を占領するつもりだった。江戸幕府は“平身低頭外交"を続ける一方で朝廷の顔色をうかがい、二重政府状態に。清朝のように列強に国土が切り分けられる危機だった。

それに対する答えが1867年の「船中八策」で、大政奉還、議会開設、近代官僚制移行、憲法制定、海軍拡充などを盛り込んだ。

今の日本は、中国に尖閣諸島や沖縄を切り取られようかという危機にある。ところが、 「維新八策」の主眼は、道州制や大阪都構想の実現。国家をバラバラに解体し、中央と地方の二重政府をつくるものだ。

しかも「死ぬまでに稼いだお金を使い切るべきだ」として、財産の全額徴収を検討中という。つまり相続税100%。マルクスが『共産党宣言』で共産主義国家の10の政策に入れた「相続権の廃止」を断行するらしい。

最後に没収されるなら、国民は稼ぐ気持ちが失せ、「富国」ではなく「極貧国」が実現する。 「維新八策」は、龍馬の「船中八策」の正反対だ。

橋下氏は、幕末の四賢候や過激思想の水戸藩主?

橋下氏は坂本龍馬というより、文字通り地方雄藩の「四賢候」や、過激攘夷思想の水戸藩主「烈公」徳川斉昭の位置づけだろう。

土佐の山内容堂ら四賢候はあくまでも、幕府と藩主による連合政治を考えており、維新の会の主張する道州制に近い。

この幕府と藩主の協力体制を否定し、将軍と幕閣中心の政治に戻す過程で起こったのが大老・井伊直弼による「安政の大獄」。斉昭らを引退に追い込み、水戸藩に連なる疑いのある志士たちを処罰した。その反動で、水戸藩士らが井伊を恨み、暗殺したのが「桜田門外の変」。

現代日本の「維新」は、まだこのあたりを行き来しているのだろう。

維新の会の後に来る「薩長同盟」とは?

では、これからはどう展開するか。

幕末の場合、尊王攘夷思想の“総本山"水戸藩が主役から降り、薩長の時代がやって来る。

水戸藩士は徳川幕府を守るために井伊を倒したが、実際はまったく違う意味を持った。長州の高杉晋作、薩摩の西郷隆盛、大久保利通らが「幕府を倒し得る」「革命を起こせる」という確信を持ったのだ。

しかし、薩長は違う道をたどった。長州は20代の若者たちが藩を乗っ取り、幕府と決戦し、四カ国艦隊とも戦争し、滅亡するかどうかの瀬戸際までいく。高杉は「長州も滅ぶが幕府も滅ぶ」という“無理心中戦略"を描いていた。

司馬遼太郎はこのときの長州について、「狂信の徒」が「無我夢中で踊りまくる宗教的ヒステリー」と書いた (『竜馬がゆく(五)』)。

薩摩はその対極で、常に現実的に行動した。幕府にもいい顔をしながら、最後に滅亡寸前のライバル長州に手を差し伸べ、倒幕へ舵を切った。

ただ薩長とも、幕府を倒した後、どんな政治をするかあまり考えていなかった。そこで飛びついたのが龍馬の「船中八策」だった。

「幕府崩壊」はそう遠くない

今の日本が幕末と同じ国防の危機にあるなら、やるべきことは「船中八策」の精神とそう変わらない。憲法改正であり、海軍力の増強であり、現代的な文脈での大政奉還だ。

大政奉還の意味は、「本来の主権者に政権を返す」こと。幕末なら天皇に返すことだが、今なら「国民に返してもらいましょう」となる。

国土・国民の危機を放置しながら、大震災後に大増税をかける官僚や政治家ら「悪徳代官」、そして「悪徳マスコミ」から、国の運命を決める権利を取り戻さなければならない。

ペリー来航は1853年。安政の大獄から桜田門外の変が58年から60年。現代の「維新」がこのあたりまでたどり着いているならば、大政奉還(67年)までは、ちょうど折り返し地点にあたる。

21世紀の「幕府崩壊」はそう遠いことではない。

(綾織次郎)


タグ: 2012年5月号記事  橋下徹  船中八策  桜田門外の変  尊皇攘夷  相続権  水戸藩  幕末 

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