インドのシン首相と中国の習近平国家主席の会話の内容について、新華社通信が報じたシン首相の発言に、インドの外務省がクレームをつけた。相手国首相の発言を曲げて伝えるという前代未聞のやり方に、着々と進む「中国包囲網」に対する中国側の焦りが透けて見える。

習主席とシン首相は、BRICS(新興5カ国)の首脳会議の際に南アフリカのダーバンで27日に会談した。その中でシン首相は「インドは独立自主の外交政策を堅持しており、中国をけん制する道具とみなされることはない」「インドはチベット自治区が中国の領土の一部であることを承認する。チベット族がインドで反中国政治活動に従事することを許さない」と語ったと、28日付中国国営メディアの新華社通信が報じた。

これに対し、インド外務省幹部は28日、上記ふたつの発言について「承知していない」と否定している。また、チベット問題については習主席の側が言及したという。(29日付読売新聞)

実際のところは、インドと中国はチベットに関して1950年代から国境紛争を続けており、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世もインドに亡命している。インド側がチベットをそう簡単に見離す発言をするはずがないのだ。

中国のメディアは、例えば日本の尖閣諸島について「歴史的に中国のものだ」と主張し続けているが、単なるウソではなく、「日本は過去、中国に対して非道な侵略をしたのだから、このぐらい小さなことだろう」と、相手の弱みに付け込んでウソを押し通そうとするところが始末が悪い。

今回の首相発言の"ねつ造"も、あえてインドが中国寄りであり、中国包囲網はインド側から破られる、という印象の記事を中国国営メディアが出すことで、他国にそういう印象を植え付けようとしたのだろう。

しかし、一国の首相の発言をねじ曲げて伝えるというのは、国際外交において許されるはずがない。かえって中国側の信用を落とし、「やはり信用ならぬ国だ」と警戒される結果にしかなるまい。

シン首相は5月末に来日して、インドへの日本の新幹線の導入や、原発の技術協力などの交渉を進め、日印関係はより深まる見込みだ。今後とも、中国のウソやはったりに動揺せず、中国包囲網を強固にすべきだろう。(居)

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