ノルウェーのアイデ外相はこのほど、1月に発生したアルジェリアでの人質事件の動向を同国政府がほぼリアルタイムで把握していたことが明らかにした。ノルウェーはNATO(北太平洋条約機構)の設立当初からの加盟国で、メンバー各国からの情報もあることに加えて、情報機関を北アフリカにも展開していたという。その情報収集分析体制は賞賛に値するものだ。

あまり知られていない事実として、ノルウェーは、パレスチナとイスラエルとの和平実現のための工作や、旧ユーゴスラビア諸国の停戦などの外交工作に携わってきた歴史がある。こうした世界各地の紛争の調停役としての実績を積んでいくためには、紛争地を中心に世界各地に人脈(ヒューミント)を張り巡らせており、今回のアルジェリア人質事件はその成果の一つとみられる。

翻って日本の対応はどうだったか。日本人の犠牲者数10人の安否確認が難しかっただけではなく、政府専用機の派遣も犠牲者の遺体などを運ぶために行われ、人質の救出どころか事後処理しかできなかった。

もちろん首相官邸や外務省、防衛省、警察庁などが常日頃から情報収集や分析にあたり、衛星写真など公開できない情報も多数得ていたのは間違いないが、ノルウェー政府のようにほぼリアルタイムで把握していたとまでは言い難い。駐在武官すらアルジェリアに派遣されていない現状では、北アフリカでの情報収集分析体制が明らかに弱く、特に「ヒューミント」の分野では極端に弱いのではないだろうか。アフリカの日本の駐在武官はエジプトとスーダンの2カ国だけだった。

安倍政権は、日本版NSC(国家安全保障会議)の設立など、安全保障や情報体制の強化や充実をはかる方針を打ち出している。防衛省でも駐在武官の配置などを見直す方針だという。ただ、アメリカは日本だけとっても駐在武官とその随員を100人程度派遣している。日本の場合、現在、世界中合わせても36カ国の大使館と二つの国際代表部に49人の駐在武官を送っているにすぎず、アメリカと比べれば一国に対して送る数に相当する。加えて、日本の駐在武官は、身分を防衛省から外務省に移さなければならないという問題もある。

アメリカのオバマ政権が明らかに内向き傾向を強め、海外の紛争に関わらないようになった現実からすれば、日本は独自で情報収集体制を構築していかなければならない。アルジェリア人質事件は、駐在武官とその随員を主要国や紛争地に相当数投入し、その質を上げていく必要があることを示している。(弥)

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2013年2月18日付本欄

そもそも解説 安倍首相が設置を目指す日本版NSC(国家安全保障会議)ってなに?

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=5623