「我々は石を壊しているに過ぎない」。2001年、世界遺産であるアフガニスタンのバーミヤンにある石仏を爆破した、武装組織タリバンのリーダーはそう話した。破壊は、偶像崇拝を禁止したイスラムの教えに反するという理由からだった。しかしそのアフガンで、今度は中国企業による文化遺産の破壊が行われようとしている。

その舞台はメス・アイナク(Mes Aynak)という地域だ。ここには2600年前に建てられたとされる仏教寺院の遺跡があり、1000点を超える仏像や壁画など貴重な文化遺産が多数発掘されている。だが問題は、この遺跡が銅の鉱床の上にあるということだ。

鉱産会社の中国冶金科工集団公司(中冶集団)は2007年、アフガン政府と30年間にわたる銅の採掘契約を結んだ。30億ドル(約2500億円)規模のこの契約について、カルザイ大統領は「アフガン史上最も重要な経済計画のひとつだ」とコメントしている。

開発を始めるにあたっては猶予期間が設けられ、考古学者が遺産を発掘して保護できるようにした。しかし、その期限は年末で切れようとしている。発掘作業も、資金集めや機材の調達などで手間取り、思うように進まず、おまけに遺産は壊れやすく持ち出しが困難なものが多い。もしこのまま期限切れを迎えて、大規模な銅の採掘が始まれば、貴重な文化遺産が失われるだろう。

シルクロードの要衝に位置するアフガニスタンは、ネストリウス派キリスト教や、ゾロアスター教、仏教、ヒンズー教、ユダヤ教、イスラム教などが交流し、独自の文化遺産を持つ。また、メス・アイナクの地中には、5000年前の青銅器時代の遺産が埋まっている可能性もある。同国の宗教文化を傷つけるのは、人類がこれまでに築いてきた文明の遺産を損なうことでもある。

宗教を尊ぶ心の欠如した中国側の姿勢は責められるべきだが、自国の文化を“売り”に出してまでそうした国と商売せざるを得ない途上国の問題にも目を向けるべきだ。

仏教を文化の基盤に持つ日本のような文明国は、こうした破壊を止めるようユネスコなどで働きかけるとともに、戦略的な途上国支援を行ってゆく必要がある。人類の宗教心や遺産を守るために、各国の経済発展や治安維持の手伝いをすることも重要な国際貢献である。

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