生まれてから25歳で北朝鮮を脱出するまで、魚も牛肉も一度も食べたことがなかった――。そんな脱北者女性たちのストーリーが、23&24日付インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの1面トップに出ている。彼女たちの生活を支援しているのは韓国最大の財閥ヒュンダイ(現代)グループだ。以下、要約抜粋。

・ 韓国の李明博大統領は「公平な社会」を推し進めるため、国内の財閥に慈善事業の拡大を促している。国民の多くは財閥に対し、傲慢で同族主義が強すぎるという感情を持っているので、財閥としても慈善事業でイメージアップを図りたい狙いもある。たとえば現代グループは恵まれない人のための融資プログラムを実施しており、融資を受ける人の中には脱北者たちも少なくない。

・ 脱北者のLeeさん(38歳女性)はヒュンダイ・キャピタル社から年利2%で5千万ウォン(約400万円)の融資を受け、床屋を始めた。山で野草をとってきて飢えをしのいでいた彼女は、「中国では毎日、犬に残飯のご飯と汁をやっている」と聞いたことがきっかけで脱北を考え始め、1997年に脱北した。たどり着いた韓国では、北のスパイではないかと3ヵ月取り調べを受けたのちようやく解放され、低賃金の職業を転々とし、ようやく今回の融資で店を持てた。

・ 同じく脱北者のSonさん(40歳女性)も、96年に25歳で脱北する当時は勤め先の工場で食糧配給がストップし、塩も砂糖もなく、草を食べて命をつないだ。脱北するまで魚も牛肉も一度も食べたことがなかった。中国との国境の川を渡って脱北したが連れ戻され、4ヵ月間投獄されて電気ショックの拷問を受けた。再び脱北に成功し、今はヒュンダイから4千万ウォン(約320万円)の融資を受けて魚屋を営んでいる。彼女は言う。「韓国の人から“下層階級”だと見下されることもあるけれど、脱北のつらさを思えば何でもない」

大企業が低所得者向けの融資を組むとは日本では考えにくい話で、李大統領の強いリーダーシップがあってこそ実現したものだろう。日本では低所得者への支援といえば国や役所の仕事と決まっているが、かつて社会生態学者ドラッカーも指摘した通り、企業というプレーヤーにも国民の福祉のためにやれることはいろいろある。何でもかんでも「お上(かみ)頼み」で硬直的に考える必要はないのだ。(司)

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