与野党6党が共同で提出した「いじめ防止対策推進法」が21日、参議院本会議で可決、成立した。いじめの加害児童・生徒に対する懲戒や出席停止などの処分のほか、犯罪レベルの行為については警察と連携を取ることを定めた。しかし、大津のいじめ事件で問題となった学校や教師の側の「いじめ隠蔽」に対する罰則は盛り込まれなかった。

法案成立のきっかけとなった2011年の大津市いじめ事件では、自殺の前から被害生徒の親や他の生徒が学校にいじめの事実を伝えていた。それにもかかわらず、学校側は加害者にいじめをやめさせることなく、被害生徒は自殺に追い込まれてしまった。さらに、被害生徒の自殺後、市教委は校内で行ったアンケートの結果を隠していた。2012年7月、遺族の申し出で滋賀県警が捜査に踏み切ったことで加害生徒が逮捕され、第三者委員会の調査により、学校側のいじめ隠蔽が明らかになった。

しかし、今回の法案では、大津事件の核心である「学校側のいじめ隠蔽」については、なんら有効な罰則が明示されなかった。心身に重い被害を受けたり、長期欠席に追い込まれるなどの「重大事態」に関しては、文科省や自治体への報告と、被害者への情報提供を義務付けているが、裏を返せば、学校側が「重大事態ではない」と判断すれば、これまでと同じように隠蔽されかねないということだ。

同法では、校内に、教職員やスクールカウンセラーによるいじめ対策の組織や相談窓口を設置することも決められたが、スクールカウンセラーは被害者の話を「傾聴」することはできても、加害者にいじめをやめさせるノウハウを持っているわけではない。

法案の成立について、いじめ解決の専門家である「いじめから子供を守ろうネットワーク」の井澤一明代表は、本誌取材に対してこうに語った。

「いじめ防止法が成立したこと自体は、一歩前進と言えるでしょう。しかし、この法案では、被害者がいじめられなくなるという確信が得られません。いじめの隠蔽について罰則がなければ、学校や教師は『自分たちは変わらなくてもいい』ということになりかねないでしょう」

いじめ自殺の連鎖を止めるためには、日頃から教師が生徒に対し「いじめは許さない」という姿勢を示し、小さないじめの芽をつんでいく必要がある。学校で起こるいじめを解決する責任は、学校や教師にあるということをはっきりさせなければならない。その意味でもやはり、いじめ防止法には、教師や学校のいじめ隠しに対する罰則を明記するべきである。(晴)

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