ソウル高裁は3日、靖国神社の門に放火したとして日本政府が身柄の引き渡しを求めていた、中国籍の劉強容疑者について、日本側への引き渡しを行わない決定を下した。劉容疑者は昨年、ソウルの日本大使館に火炎瓶を投げ込んだことで罪に問われたが、その調査の中で、一昨年、靖国神社の門に放火したことを自供した。

日本と韓国は、国外逃亡した犯罪容疑者の身柄を引き渡す条約を結んでいるが、政治犯の場合は引き渡しの対象から除外される。高裁は「靖国神社を単なる宗教施設でなく、過去の侵略戦争を正当化する政治秩序の象徴とみなした犯行で、政治的大義を実現するために行われた」と指摘。劉容疑者を「政治犯」と認定し、引き渡しを認めなかった。

劉容疑者は、祖母が日本軍のいわゆる「従軍慰安婦」だったと主張しており、日本側がこの問題で賠償などに応じないことに腹を立てたことを、犯行の動機に挙げている。

今回の決定は、「反日」という大義のために条約の解釈をねじ曲げるもので、極めて許しがたい。劉容疑者の引き渡しを日本側が求めた罪状は、あくまでも「建造物等以外放火」であって、政治犯罪ではない。韓国のロジックでいけば、反日活動のためなら放火も許されることになるが、これでは近代的な法治国家とは言えないだろう。

韓国は盧武鉉政権時代にも、植民地時代に日本に協力した人々の財産を、本人や子孫など相続者から没収できる法律をつくっている。当時は罪に問われなかった過去の出来事を裁くために「事後法」をつくるのは、近代法の概念からしておかしな話だが、「反日」のためであれば韓国ではまかり通ってしまう。

今回の司法決定をめぐっては、劉容疑者を政治犯に認定して中国に送還するように、中国側がしきりに求めていた。韓国が近代国家としての体面をかなぐり捨て、独裁国家・中国と対日歴史問題での共闘を選んだという見方もできるだろう。

韓国側の論理で言えば、仮にソウル日本大使館前の「慰安婦像」が叩き壊される事件があって、犯人が日本に逃げてきたとしても、日本側が「政治犯」と認定すれば韓国側に引き渡さなくていいことになる。もしそうした事態になれば、韓国は官民ともに国を挙げて怒り狂うだろう。もし韓国が儒教の伝統を汲む国なら、「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」と説いた孔子の言葉の意味を、よくよく噛みしめるべきである。

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