万犬虚に吼える、とはまさにこのことだろう。

北海道、東北、関西、四国、九州の電力五社が、電気料金を来春以降に相次いで引き上げることになりそうだ。21日付日本経済新聞が報じている。

関西電力は、来年9月までに家庭向け1割強、企業向けで2~3割程度上げる。

東京電力は今年9月からすでに家庭向けを平均8.46%値上げしている。

中部、北陸、中国の三社は、今のところ、値上げは回避される見通しだ。

言うまでもなく、値上げの原因は、原子力発電所の稼働停止だ。

原発を停止すれば、火力発電への回帰が促される。火力になれば石油などの化石燃料を調達する必要が生じる。当然、原発よりコストは跳ねあがるため、値上げは余儀なくされるわけだ。

それにしても、今回の震災で被害を受けたのは福島の原発であって、他の地域は直接の被害を受けていない。

福島にしても、津波では大勢の人がなくなったが、原発の事故や放射能漏れによって一人も死んでいない。

被害がないのに、ただ漠とした不安があるというだけで、電力各社が赤字に転落し、従業員の給与がカットされ、値上げを余儀なくされている。電力会社は民間企業とはいえ、実質的な独占企業であるため、その値上げは、事実上の増税と同じだ。とりわけ企業への値上げは、景気に与えるダメージは思う以上に大きなものとなろう。

経済学者のジャック・アタリ氏は、「安全なエネルギーなど存在しないのです。つまり、エネルギーはそもそも危険なものなのです」との前提で、「放射線に関する危険は、潜在的な危険です。このような潜在的な危険を、広島や長崎における原爆による被害と混同してはいけません」と語っている。(WILL11月号緊急増刊)

氏の言うように、「潜在的な危険」と「顕在化した危険」の区別がつかず、大騒ぎして必要のない値上げを図り、「現実の経済的な負担」を国民にもたらした、というバカな構図が今の日本にある。しかも、この値上げによって、原発の潜在的な危険が低下するわけでもなく、逆に化石燃料への依存を高めることで、大気汚染の危険を高め、安全保障上の危険を高めてしまうのだ。

虚に吼えた犬たちこそが、もっとも危険だったというのが、今我々がつかむべき教訓であろう。(村)

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