京都大学iPS細胞研究所などの研究グループは、筋委縮性側索硬化症(ALS)の患者の皮膚から作製した新型万能細胞(iPS細胞)を用いて、ALSの病因解明・治療薬開発につながる物質を世界で初めて特定した。2日付各紙が報じている。

iPS細胞とは、体細胞の特定の遺伝子を組み替えることで作製される多能性幹細胞だ。患者自身の細胞からつくることができるため、iPS細胞から分化した細胞や組織を患者に移植しても拒絶反応が起きにくいと考えられている。そのため再生医療への応用が期待されているが、今回の研究発表では、iPS細胞の技術が難病の病因解明や新薬開発の突破口ともなることが改めて示された。

ALSとは、筋肉が次第に萎縮し、全身の筋肉が動かなくなる難病だ。病因に未解明な部分が多いため、今まで有効な治療方法がなかった。今回の研究ではALS患者からiPS細胞を作製し、それを運動神経の細胞に変化させたところ、ALS患者の細胞内に蓄積されているのと同じたんぱく質「TDP-43」が変性・蓄積しており、その影響で運動神経の突起部分が健康な人より短くなっていることがわかった。ここに「アナカルジン酸」という物質を加えると、突起の長さが健康な人の細胞と同じ長さになった。

これはすなわち、iPS細胞によってALSの病態を細胞レベルで再現し、病因の解明を一歩進めることができたことを意味し、世界初のALS治療薬の発見につながる可能性もある。iPS細胞を開発した同研究所の山中伸弥教授は「ALSのように患者数が少なく、製薬企業が治療薬の開発に消極的な難病の治療薬を開発したい」としている。

こうしたニュースに触れると、生命が持つ、細胞などの形で自己を複製する神秘的な力を感じずにいられない。医学の進歩は、その秘められた力を解き放つ――原子核に秘められたエネルギーを核技術が解き放ったように――プロセスであると考えれば、医学と神秘は何ら矛盾するものではない。どちらも目的は人間の「幸福」である点も一致する。iPS細胞を用いた研究が難病治療に道を開くことを期待したい。(飯)

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