原発から撤退した場合、2030年には標準家庭の電気料金が月額約2000円増えるが、原発を推進すれば13円増にとどまるという日本学術会議の分科会の試算をまとめた。3日付読売新聞が報じている。

試算は、原発撤退(停止時期によって4通り)、現状維持、原発推進の6通りで検討。いずれも2030年時点で見ると、来夏までに全原発を停止した場合は2121円増、現状の規模を維持した場合は372円増、全発電量の50%程度までに原発を拡大した場合は13円増となった。原発から撤退すれば、家庭や企業の負担が増えることは一目瞭然。不況脱出の足かせになるばかりか、企業が工場などの海外移転を加速させ、日本経済はますます衰退していく。

しかし、原発撤退でもっとも考えなければいけないのは、「国防の危機を招く」という点である。資源が豊富にある主要国のエネルギー自給率は、米国72%、イギリス104%、中国96%と軒並み高い。しかし、日本はたった18%で、そこから原発分を差し引けば4%まで落ち込む。

上記の試算も、原発撤退後は火力発電などに切り替えることを前提にしているが、火力の燃料は石油や石炭、ガスであり、その大半を輸入に頼っている。また現在、西沙・南沙諸島付近の海域で、中国と東南アジア諸国がにらみ合っているが、その海域は火力の燃料が運ばれてくる海上交通路(シーレーン)である。つまり、国際的な紛争や資源輸出国の政変などによって、日本に資源が入って来なくなる危険性があるということだ。

ぜひ政府には、起こり得る国際紛争を想定して、その場合に日本のエネルギー環境がどう変化するかという試算を行ってもらいたい。そうすれば、原発からの撤退が国家の存亡にかかわるということがはっきりする。(格)