【名画座リバティ (29)】映画で学ぶ偉人伝(1)──『若き日のリンカーン』
2026.08.02
ファーストトレーディング『若き日のリンカーン』より。
映画を愛する皆様、暑中お見舞い申し上げます。
月刊「アー・ユー・ハッピー?」の先月号(2026年8月号)は定年後の豊かな暮らしについて特集し、その中で、ボケないように頭脳を鍛える方法として(1)古典文学や名作映画に親しむ、(2)偉人伝を読み返す、の二つを勧めていました。ならば、偉人の伝記映画の名作を観れば一石二鳥ではないでしょうか。それはシニア世代の頭脳活性化はもちろん、若い世代にとっても手近な教養の道です。
そこで今回から不定期で、偉人を描いた名作映画をご紹介したいと思います。1本目は名匠ジョン・フォード監督による「若き日のリンカーン」(1939年)。90年近く前の作品ですが、時代を超えた良い映画をお勧めするのが「名画座リバティ」の信条です。
(あらすじ)
若きリンカーンは恋人の死という悲しみを乗り越え弁護士になる。祭りの夜、副保安官がある兄弟とけんかの末、死んでしまう。暗闇の中、兄弟のどちらが殺したのかはっきりとしないまま、二人が互いをかばうように犯行を認めたことから、二人とも逮捕される。兄弟の母親が二人をかばうのを見たリンカーンは自分の亡き母の面影を彼女に重ね、兄弟に怒りを向ける群衆を巧みな演説でなだめ、彼らの弁護を買って出る。
ストーリーは、弁護士時代のリンカーンが実際に40代で扱った事件に基づくフィクションです。のちの偉大な大統領も、本作では一介の駆け出しの弁護士に過ぎません。しかし、その魚が何の魚であるかは鱗(うろこ)一枚見ればわかるという通り、高い演説能力と人間愛を備えたリンカーンの片鱗を若き日の物語として描き出しています。本作の深い味わいどころとして挙げたいのが、青年リンカーンが法律の道を志すに至るこんな場面です。
──彼が川原の木の下に寝そべり法律書に読みふけっていると、「エイブ」と彼の名を呼ぶ美しい女性アンが現れる。心ひそかに惹かれ合っている二人は川原の道をゆっくり歩き始める。リンカーンが「僕は老いた馬と同じさ。害はないが能力もない。学校にも行ってない」と自信のなさを打ち明けるとアンは言う。「あなたは利口で野心家だわ。自分で気がつかなくてもそうなのよ」。アンが歩き去るとリンカーンは地面の石を拾い、何かの想いを込めるかのようにそれを川の水面に投げる。水面にゆっくり波紋が広がり、次の瞬間、波紋にオーヴァーラップして、画面は流氷が流れる冬の川に変わる──。
次に何の場面が映るかは、ぜひ映画をご覧ください。白黒画面の絵画的な映像美と抒情的な音楽に彩(いろど)られたフォードの演出が、リンカーンの原点となったエピソードを劇的かつ芸術的に描いています。主演のヘンリー・フォンダも長身と長い手足がリンカーンのイメージによく合っています。リンカーンは恋人の死や、のちの妻に求婚して最初に断られた際などに深い憂鬱に陥り、何日も寝込んだそうです。誰よりも深く悲しみ苦しむ魂の力を持っていたからこそ、彼は後に大いなる忍耐力を発揮し、合衆国分裂の危機を乗り越えることができたのでしょう。
大川隆法・幸福の科学総裁は商社に勤めていた二十七、八歳の頃「風鈴とリンカーン」と題する詩を書いています(『愛のあとさき』所収)。これはアメリカ駐在当時、リンカーン座像の前で撮った自らの記念写真について綴られたもので、リンカーンの奴隷解放を超える、精神の奴隷の解放を成し遂げようと思ったことを回想したのち、こう結ばれています。
あれから二年経った
私は真理の力で
自分一人をも解放できないでいる
けれども
私の心の中では
写真の中のリンカーンの坐像と
凛(りん)として立っている
私の姿とが
永遠に
競い続けている
これこそ、人が偉人から感化を受ける典型的なあり方ではないでしょうか。自分の心の中にいつも敬愛する偉人のイメージがあり、そのイメージと競い合う自分がいる。全人類救済という大事業を志した若き日の大川総裁にとって、そうした対象の一人がリンカーンだったわけです。
青年期の総裁が偉人の生涯を知ったのは主として読書によってでしょうが、いろいろな映画を手軽に観られる現在の私たちには映画鑑賞もそのルートになり得ます。かつて、神近き人の物語が神話や伝説となって語り継がれたように、20世紀に発達した映画という媒体は、偉人の生涯を"現代の神話"として映像で見せてくれます。私たちはそれを観ることで、感性を通して偉人の生き方のイメージを内在化することができるのです。
あなたも本作の若きリンカーンの姿を瞼(まぶた)に焼き付け、彼を心のライバルの一人として、青雲の志を新たにしてみてはいかがでしょうか。たとえ肉体年齢が何歳であっても、永遠の生命を信じる限り、私たちの「若き日の心」もまた永遠不滅であるのです。
(田中 司)
『若き日のリンカーン』
- 【スタッフ】
- 監督:ジョン・フォード 音楽:アルフレッド・ニューマン
- 【キャスト】
- 出演:ヘンリー・フォンダ アリス・ブラディほか
- 【その他】
- 1939年 | 100分 | アメリカ
【関連書籍】
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