安倍晋三首相は17日、都内で行った講演の中で、投資やインフラ輸出の促進などを掲げた「成長戦略」を明らかにした。4月に発表された第1弾の戦略と合わせて、政府が6月にまとめる「成長戦略」に盛り込む予定だ。

講演の中で安倍首相は、向こう3年間を企業の設備投資を促す「集中投資促進期間」と名付け、現在年に63兆円規模の民間設備投資を70兆円レベルまで引き上げる計画を示した。海外へのインフラ輸出も、首相自らトップセールスに励むなどして、2020年までに現在の3倍の受注額を目指すという。

「3本の矢」で構成されるアベノミクスはこれまで、金融緩和と財政出動が先行してきた。しかし、これらはデフレ不況から早急に脱却するための緊急措置の意味合いが強く、いずれは効果切れを迎える。そこで日本経済が持続的に発展するために、民間の力を高める「成長戦略」が中長期的に極めて重要になってくる。

しかし、安倍首相自ら「アベノミクスも、いよいよ本丸」と意気込んだ今回の成長戦略だったが、政策の一つひとつは小粒の印象で手詰まり感がぬぐえない。先進国屈指の高さにある法人税を含めた減税政策も、今回の戦略に盛り込まれなかった。

野心的な目標が先行する一方で、規制としがらみという日本経済の構造的な問題には切り込みが甘かったと言える。日本は長い労働時間の反面、アメリカに比べて労働生産性が7割弱であり、解雇や転職の規制を軽減して雇用の流動性を高める余地がある。あるいは、建ぺい率などの建築規制を緩和して、建築ブームを起こす手もある。農業や医療分野への、企業参入をもっと進めるのも一案だろう。

民間主導の持続的な経済成長を実現するために、これまでの自民党の体質を打ち破って既得権益やしがらみと戦えるかが、アベノミクスの今後の成功を左右する条件になりそうだ。18日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙は社説で次のように論じている。

「(生産性向上の)障害は強固な政治利害であり、安倍氏の計画の見取り図は大胆な期待と古くて変わり映えのしない産業政策じみたアイデアの間を行きつ戻りつしている」

「(大学生の留学奨励や経済特区など)これらの政策がどんな小さな成果を上げたところで、これらは大きな政府と改革のジェスチャーを見せることを強く好んだ古い自民党の典型的なやり方だ」

「成長戦略」が民間の力を高めるためにあるなら、政府は既成のしがらみを取り除いて「小さな政府と安い税金」を目指さなければならない。野心的な目標を掲げれば掲げるほど、政府は民間が自由に経済活動できるよう制度を調え、国民に仕えなければならないのだ。既得権益の代名詞という声もある旧来の自民党体質を捨て去り、国民の自由に奉仕できるかどうかが、「第3の矢」成功の鍵である。

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