中国の首都・北京など各地で先月から深刻な大気汚染が続いており、中国環境保護省によると、有害物質を含んだ濃霧はこれまでに国土面積の1/4に広がり、約6億人が被害を受けた。原因は、工場の煙や車の排気などに含まれる「PM2.5」という物質で、吸い込むと肺の奥まで入り込んでぜんそくや肺炎などを起こす危険がある。

世界保健機関(WHO)は1立方メートル当たり25マイクログラムを限界基準としているが、北京では400マイクログラム前後の数値が相次いで観測されており、防護マスクが飛ぶように売れているという。

PM2.5による汚染は、工場や車の量が増えたことや、暖房用の石炭などによるもので、工業化の著しい中国ではこれまでにも問題になってきた。北京など4つの都市では昨年、PM2.5による死者が約8600人にのぼっている(北京大学、環境団体グリーンピース調査)。しかし今年の被害は特に甚大で、地元メディアは「60年間で最悪」「北京で1日過ごすのはタバコ21本を吸うのと同じ」などと報じている。

大気汚染は中国の国内問題だけでは済まされない。偏西風に乗って、汚染物質が日本にも飛来してきているからだ。福岡県など西日本を中心とした広い範囲で、国の基準値である35マイクログラムを超える値が観測されている。政府は現在のところ健康に問題はないとしているが、濃度が10マイクログラム上がるごとに肺がんになるリスクが1.2倍高まると環境省は推計しており、今後も用心が要りそうだ。

大気汚染では中国国民も犠牲になっているが、国境を超える大気汚染は、化学兵器の使用と実質上変わらない。中国政府に厳格な対策を要求するとともに、賠償も要求すべきと言える。

福島県での原発事故の際に、日本政府は、健康被害の起こらない放射線レベルだったにもかかわらず、市民に避難生活を強いた上、東京電力に精神的被害を含む賠償責任を負わせた。この時の対応に照らせば、中国政府に対して健康被害や精神的被害に対する賠償を求めるのは当然のことではないか。国内企業の東電には賠償をさせ、中国には何をされても黙っているというなら、政府の姿勢は、国民を守るという意識を欠いたダブルスタンダードということになる。

隣国に対して言うべきことを言わなければ、日本の国益、国民の安全な生活がどんどんと脅かされてゆくことになる。

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