WEB特別記事

原発「活断層」調査 「活断層即廃炉」は非科学的な“魔女狩り”だ

原子力規制委員会の専門家調査団が、全国6カ所の原発で活断層の有無を調査している。「脱原発」に勇み足のマスコミは、「活断層なら廃炉にせよ」という論調を煽っている。しかし活断層だけを調べても地震が来るかは分からない上、脱原発路線を急げば、経済でも国防でも甚大な悪影響となりかねない。活断層探しに意義はあるのか、地震の専門家2人に聞いた。

東北大学 災害科学国際研究所

遠田晋次教授

(とおだ・しんじ)地震地質学者。1966年生まれ。東北大学大学院理学研究科前期博士課程修了。電力中央研究所、東京大学地震研究所、産業技術総合研究所活断層研究センター、京都大学防災研究所などを経て、現職。

武蔵野学院大学 地球物理学者

島村英紀特任教授

(しまむら・ひでき)地球物理学者。1941年生まれ。東京大学大学院で理学博士号。北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを経て、現職。日本科学読物賞を受賞した『地震をさぐる』(国土社)、『地震予知はウソだらけ』(講談社文庫)、『日本人が知りたい巨大地震の疑問50』(サイエンス・アイ新書)などの著書がある。

地形学者が主導する調査委員会には疑問

東北大学 災害科学国際研究所 遠田晋次教授

原発の破砕帯は大地の「ひび割れ」に過ぎない

東北大学
災害科学国際研究所
遠田晋次教授

(とおだ・しんじ)地震地質学者。1966年生まれ。東北大学大学院理学研究科前期博士課程修了。電力中央研究所、東京大学地震研究所、産業技術総合研究所活断層研究センター、京都大学防災研究所などを経て、現職。

今話題になっている、原子力発電所の敷地内にある活断層というのは、分かりやすく言えば大地の「ひび割れ」に過ぎません。日本各地で主要な活断層と言われているものは、これまでにも地震を起こしてきたことがかなりの確率で確かめられていますが、今回のものは非常に小さな規模で、それ自体が大きな地震を起こすものではないのです。原発の周辺の大きな活断層はすでによく調べられています。

今回の調査は、「そうは言っても念のため調べましょう」ということだったのですが、「原発直下の活断層が大震災を起こす」という歪んだイメージがマスコミ報道などを通じて広まってしまった結果、「活断層、即アウト」という構図になってしまいました。

地震をよく知らない地形学者が調査委員会を握っている

こうした流れを創った原因のひとつは、これまでは地震学の傍流だった変動地形学者が、今回の調査委員会の8割ほどを占めていることです。変動地形学は、断層などの動きによって地形がどのように発達してきたかを研究する学問です。地震の繰り返し起きる性質を評価する上で重要であることは間違いありません。しかし、残念ながら地形学者の多くは地震現象そのものにはあまり興味がありません。地震について本当に理解している人は少ないのです。原発に関する政府の審査などでは、これまで地震を専門とする地質学者が主要な役割を担ってきました。その分、今回は変動地形学者がこれまでの鬱憤を晴らすかのごとく“活躍"しているというのが、調査委員会の裏事情です。

地質学者と変動地形学者の争いは、活断層の定義をめぐる論争にも表れています。地質学者にとって、活断層とは過去に動いた形跡のある断層で、今後もずれる可能性のあるものを指します。今のところ、5万年を超える間隔で繰り返し地震を起こした断層は見つかっていません。そのため、これまでの政府の安全基準では、過去5万年の間に動いた形跡があるかどうかが活断層判定の基準となっていましたが、2006年に細心を期して12万年に変更されました。

「十字架」を背負った地震学

これに対して、変動地形学者からは「40万年にすべき」という意見が出ています。40万年間静止していた断層がゾンビのように生き返って地震を繰り返すというのは考えがたい話で、そのような科学的証拠が示されたことはありません。しかし、大昔に海岸だった形跡が40万年前くらいまでなら地形から大体分かるため、変動地形学者はこの値を指摘しているようです。ただ、「40万年」という数字は、地震学という観点から見れば意味のない数字です。

一方で、残念ながら“十字架"を背負ってしまった地震学が、変動地形学者の“活躍"を助長しているというのが現状です。東日本大震災を引き起こした地震を予測できなかったことで、後ろめたさから「地震が起きるかもしれない」と、少しの可能性でも針小棒大に誇張するしかないのです。

活断層は安全性の一要素に過ぎない

規制委員会の独裁的なやり方はとても科学的態度とは言えず、かえって地震学や地形学の信用を落とすのではないかと危惧しています。そもそも活断層の問題というのは、原発の安全性を左右する一つの要素に過ぎません。発電所の土台を調べることは大切ですが、他にもやることはたくさんあるはずです。

私が原子力安全・保安院の一委員であったころも活断層の議論をしていましたが、地震の専門家、地盤の安定評価の専門家、建物の安全を議論する工学の専門家など、様々な専門家が意見を述べる場があって、総合的に評価していきました。今回の委員会も、本来なら活断層の議論の後に、建物の耐震性など工学的な議論をする委員会や、原発がスムーズに稼働できるか、危機の際に停止できるかなどのオペレーションの問題を討議する委員会など、色々なものがなければおかしいのです。こうした議論をすっ飛ばして、しかも地震現象をよく理解しているとは言えない変動地形学者のみが廃炉かどうかの判断を握っているのは、非常に危ないことだと思います。

「活断層法」制定の動きにも疑問

変動地形学者主導で、「活断層台帳」を作る動きもあります。現在では、産総研(産業技術総合研究所)のデータベースなどが有名ですが、彼らは一つ一つの活断層を正確に調べた国公認のデータベースを作ろうとしています。データベースを作ること自体は有用なことですが、問題は「活断層法」というのを作ろうとしていることです。

この法律のモデルは米カリフォルニア州の法律で、活断層の近くに建物を建ててはならないとするものです。これは地震の揺れではなく、断層のずれによって建物が倒壊することを防止するものです。しかし、カリフォルニアの断層というのは日本では海底にあるプレート境界にあたる大きなもので、日本国内で騒いでいる「活断層」とは別のものです。また、土地が広いアメリカでは建設制限もできましょうが、日本で同じことをやれば、いろいろな規制ばかりがかさみます。さらに、地震被害という観点からは軟弱地盤での揺れによる建物被害対策の方が優先度は高いと思います。断層のずれを考慮することも大切ですが、うがった見方をすれば、こうした動きで、変動地形学の存在感を無理にアピールしようとしているようにも感じられます。

原発の「破砕帯」は無視できるレベル

こうした原発などの議論をする際に、諸外国では確率論で話を進めることが多く、日本もそれを考慮するべきでしょう。これこそ科学的アプローチなのです。例えば、隕石が発電所に衝突する確率も多少はある。だから本当に万全を期せということなら、こういう確率も考えなければいけないことになります。だから、ある程度のところで線引きをしなければならないわけです。

活断層が今後40年の間に動く確率はものすごく低いわけで、本来なら切り捨てるべきものは切り捨てなければいけません。日本の主要な活断層は数千年や1万年間隔で動いているので確率はわずかに高くなりますが、原発で騒いでいる「破砕帯」のような、小さな断層や地面の亀裂レベルのものが数万年、10万年に1回動く確率というのは極めて低いのです。そんなことまで相手にしていたら何もできなくなってしまいます。

地震が起きても建屋に影響がなければいいわけですから、エンジニアの知恵を生かして、そうした耐震の問題を解決する道もあるのではないかと思います。日本はこれほど技術力のある国なのに、こうした話が度外視されているのはとても残念なことです。

活断層を調べてもいつ地震が来るかは分からない

武蔵野学院大学 島村英紀特任教授

阪神大震災をきっかけに地震予知は廃れた

武蔵野学院大学 地球物理学者
島村英紀特任教授

(しまむら・ひでき)地球物理学者。1941年生まれ。東京大学大学院で理学博士号。北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを経て、現職。日本科学読物賞を受賞した『地震をさぐる』(国土社)、『地震予知はウソだらけ』(講談社文庫)、『日本人が知りたい巨大地震の疑問50』(サイエンス・アイ新書)などの著書がある。

日本では地震予知計画が1965年から始まり、地震学は予知を前提としてきました。1976年には東海地震の可能性が取りざたされ、1978年には大規模地震対策特別措置法(大震法)が成立。気象庁の判定委員会が「大地震が来る」と判定すれば、防災を理由に、新幹線も東名高速も止まり、耐震性がない病院から入院患者を返し、スーパーも営業できなくできるという法律です。しかしそれ以来、40数年間、東海地震は起きておらず、地震予知というものの疑わしさが明らかになっています。

1995年の阪神淡路大震災を予知できなかったことで、政府は地震予知の看板を下ろし、「地震調査研究本部」を発足させました。そこで地震予知の代わりに打ち出された地震調査には二つの柱があって、一つは確率調査と、もう一つは活断層調査です。

見えない活断層もすべて調べるのは不可能

そこで活断層がにわかに脚光を浴びることになったわけですが、非常に問題があります。まず、日本には分かっているだけで2000ぐらいの活断層がありますが、見つかっていないものも含めると多分6000ぐらい。活断層は見えるから騒ぎになるのであって、見えなければ騒ぎにならないのです。地震が起きてみて、初めて活断層だと分かったというケースもよくあります。

たとえば、1855年には東京で安政江戸地震があり、1万人以上の方が亡くなりました。震源は隅田川の河口付近で、活断層があるはずなのですが地表では見えません。このように見えない活断層というのもたくさんあって、それらをすべて調べられるかというと、現実的にはほぼ不可能です。

もし活断層が3つぐらいなら、それらに注目していればいいのですが、あまりにも数が多すぎます。それに、活断層が見つかっていないところで地震が起きることがよくあるので、活断層さえ調べれば地震が分かるというわけではありません。

地震学者はいつ地震が起きるか分からない

確率調査にしても非常に曖昧です。海洋プレートと大陸プレートがぶつかるところで発生する海溝型地震は80年から150年で繰り返し起きていますが、活断層による内陸直下型地震はそうではありません。活断層は再びずれて地震を起こす可能性がありますが、それが5年後なのか、はたまた40万年後なのかは分からないのです。ちょうど、ゴムひもをずっと引っ張っていって、どこで切れるかの予測がつかないのと同じことです。現代の地震学者ではまだ、地震がいつ起きるか特定することはできないのです。

天気予報であれば、気象条件を打ち込めば予報が割り出せるようになっていますが、地震学はまだデータから自動的に地震を予測できるような段階ではありません。我々が研究できるのは、せいぜいここ2、3千年間に起きた地震までです。その程度の知識の蓄積で、百万年、千万年と続いてきた地球のメカニズムの全てを知ろうとするのは困難なことでしょう。

これまでの原発耐震基準はまったく不十分

一方で、どれくらいの規模の地震が起こり得るかについては、少しずつデータが溜まってきました。従来の原発安全基準が不十分なのは明らかです。

地震の揺れの大きさはgalという加速度の単位で測られます。980galを1Gと言って、これまでは450~600galを想定して原発を作ってきました。しかし阪神淡路大震災の後、強震計という強い揺れも計測できる地震計を全国にばら撒いて調べたところ、600 galをはるかに超えるデータがたくさん出てきたのです。

最大は4022galで、これまでの基準では到底対応できません。しかもこれまでの基準は原子炉本体などだけで、冷却装置などはそれ以下の基準でも造れたのです。福島の事故が冷却装置の故障によるものであったことを考えれば、この問題は看過できません。

では4022galに対処できるものであればいいのかと言えば、そうとも言い切れません。データの蓄積はまだ10数年しか経っておらず、十分な経験を持って「4000 galなら大丈夫だ」とか、そういうところまで分かる段階にはまだ達していません。加えて、地震が起きる際にいくつかの活断層が連動して動く可能性もあり、個々の活断層を調べるだけでは、そういうメカニズムまでは分かりません。

原発を稼働させる際には、地震がどれくらいの大きさで起きるのか、建物の耐震機能が十分かなどの検証のステップが必要でしょう。ただし、地震学者が「原発がここまで耐えればいい」と言い切れないのが、学問的につらいところです。

分からないのに背負わされる過度の責任

このように、地震については分からないことだらけなのに、地震学者は重過ぎる責任を背負わされていると言えるでしょう。学問がどこまで分かっていて、何が分からないかというのを、学者側からも科学ジャーナリズムもなかなか発信しないからです。例えば新聞の科学部と言っても、昨日は臓器移植をやり、今日は地震予知、明日はロケットをやるというような具合で、専門性を持って特定分野を深くたどっている記者はいないのです。こうした発信がないために、マスコミや政治に、学問がつまみ食いされているという印象を受けることもあります。

研究の財源を国に握られているというのも悩ましいところです。観測地点の設置などでお金がかかる地震研究の主力は国立大学で、資金もポストも政府の方針が左右します。ソニーやトヨタのような大企業がお金を出してくれるわけではないのです。断層だけを見て「地震が起きるか判断せよ」と言われれば、限界があるのは確かなのですが、政府の事業として呼び出されて調査を求められれば、やらざるを得ない部分があるのが現状ではないでしょうか。