田中真紀子文部科学相は2日、来年春の開設を目指していた、秋田公立美術大、札幌保健医療大、岡崎女子大の新設を認可しないと決定した。3大学については、文科相に大学設置の可否などを答申する大学設置・学校法人審議会が、すでに「設置を認める」としていた。大臣の判断で設置審の答申を覆すのは、極めて異例のことだ。

田中氏は同日の記者会見で、決定を副大臣にすら知らせていなかったことを漏らした。ちなみに、本誌に寄せられた情報によると、文科省の大学関連室長クラスの人物も、この決定については報道で初めて知ったという。

審議会の答申を、副大臣にも担当部局にも知らせず独断で引っ繰り返すとは、思いつきの、はた迷惑な「目立ちたがりパフォーマンス」と言うしかない。

3大学は来年の開学に向けた学舎の整備などの準備を進めているが、設置基準を満たしている大学の新設が大臣の一存で認められなくなるなら、設置準備のしようがない。実際に、岡崎女子大は推薦入試の実施を今月末に予定していた。産経新聞(電子版)によれば、同大の担当者は「文科相の思い付きに振り回されたくない」とコメントしている。

田中氏が問題を起こすのは今回が初めてではない。外相時代には、自分が指輪をなくしたため秘書官に替わりのものを買いに行かせ、イラン外相との会談に遅刻。最近でも、iPS細胞を研究する京大の山中伸弥教授が、自宅の洗濯機の修理中にノーベル賞受賞の報を受けたというエピソードにあやかり、「内閣で洗濯機をプレゼントしよう」という低次元のパフォーマンスに出た。このほど東京都知事を辞職した石原慎太郎氏を、田中氏は「暴走老人」と揶揄したが、過去の行動を見る限り田中氏に他人の批判をする資格はない。

日本の自由を蝕む「国家社会主義」の民主党政権

しかし、今回の問題は田中氏個人の「思いつき」に留まらない。田中氏は会見の中で「これは規制ではない」と強調する一方、大学の増加による質の低下と経営難を懸念する発言をしている。大学の経営に役所が口を出すのはおせっかいであり、民主党の体質である、政府が民間の活動を一元管理しようとする「国家社会主義」を象徴するものだ。実際に民主党政権は、経営難を機にJALや東電の国営化に踏み切っている。その論理でいけば、経営難に陥った大きな大学でも、政府が公的資金を注入して「国有化」することになるが、民主党の思考回路であればやりかねないだろう。

企業などの国有化を通じて、政府が民間の活動に干渉すれば、国民が自由にできる範囲はどんどん狭まってゆく。そもそも大学の質が問題なら、新規参入を認めて自由競争による質の向上を図るのが筋である。今回のように、新しい大学を一律に認めないという姿勢は、それこそ日本の教育の質を低下させることになってしまう。

これまでも閣僚の地位にありながら問題行動を繰り返してきた田中氏を文科相に据えたのは、例によって野田首相の「内向き人事」だった。9月の民主党代表選で、首相の政権運営に不満を持つ一部の議員が田中氏擁立に動いたため、挙党態勢を掲げる輿石氏が田中氏の起用を強く主張したのである。

先の田中慶秋法相の辞任も示したように、国民のためよりも党内の都合で、不適格な人事を行った野田民主党政権。彼らの任命責任をとる意味でも、日本がこれ以上、自由のない「国家社会主義」に陥るのをストップさせるためにも、野田首相は一日も早く退陣すべきである。