投資顧問会社AIJが企業年金を預かって運用した約2000億円のうち9割を消失した問題は、同じく「消えた年金」と言われた公的年金と同根の問題を抱えている。24日各紙の報道から考えてみたい。

そもそも企業年金とは、公的年金とは別に、企業と社員が出資して基金を積み立て、信託銀行や生命保険、投資顧問などに運用を委託し、それを年金として支給するものだ。

ところが、今回問題となったAIJは、どんなときでも高利回りを出すために、金融派生商品(デリバティブ)などのリスク運用をやっていた。専門家に言わせると、「99.9%の確率でまともな運用をしていないはずだ」という。

つまり、ほとんどバクチに近い運用をしている投資顧問会社に、大事な社員の年金基金を預けたわけだから、企業側の責任もきわめて重大だ。

だが、さらに根っこの問題がある。同日付日経新聞が指摘している次のような点だ。

AIJの顧客となっていた企業の多くは、中小企業で、財政状況が厳しく、企業年金の積み立て不足を起こしていたという。その穴埋めをするために、リスクが高い運用に飛びついてしまったわけだ。

また、企業年金とは別の厚生年金についても、社員と企業側が半々で保険金を出しているが、この厚生年金の積み立ても同じく不足している企業が相当あるという。

これらから見ると、今回のAIJ問題は「氷山の一角」であり、企業年金の積み立て不足と運用による損失は、相当な額にのぼるはずだ。

国が管理している公的年金と同じ問題が、企業年金でも発生し、それが徐々に明るみに出てきたということだろう。

問題の根っこは何かといえば、公的年金にしても企業年金にしても、「人に預けて、お金を大きくしてもらい、その分け前に預かる」という発想は、高度成長のインフレ期、人口増加の時期にはうまくいくこともあるが、デフレで低金利、少子高齢化の時代には、「そんなうまい話はない」ということだ。

やはり基本は「自己責任」、すなわち自分で老後資金を貯めることだ。リスクをとりたくなければ安定した預金にすればよいし、リスクをとっても大きくしたければ自己責任でやればよい。国や企業、それにあやしげな投資顧問などに大事な自分の資産を預ける発想が、そもそも違うのではないだろうか。

ましてや、国の失敗で消えた年金の穴埋めのために増税するなど、もってのほかだ。(仁)

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