三菱重工業など防衛産業がサイバー攻撃を受けた問題で、中国国内が発信元である可能性が高いため、日本政府は9月下旬に中国政府に捜査協力を要請したが、その後2カ月にわたって返答がないことを政府関係者が明らかにした。各紙が27日、報じている。

このため野田佳彦首相は来月、訪中して胡錦濤国家主席らと会談した際、改めて捜査協力を促すことを検討しているという。ところが外務省は、相手国に疑いの目を向けるのは「外交儀礼に反する」とのスタンスで、政府部内でもはやサイバー攻撃事件は「迷宮入り」が見えてきている。

サイバー攻撃をめぐっては、陸・海・空・宇宙に続くサイバー空間が「第五の戦場」として注目され、サイバー戦争が大きな脅威になっている。

たとえ核兵器や通常兵器で軍事的に優位に立っていても、サイバー攻撃で核兵器システムを使えないようにすれば、最強の米軍があっという間に最強ではなくなる可能性がある。それを目指して最もサイバー攻撃に力を入れているのが中国だ。

中国は1997年にサイバー部隊を創設。米国防省関係者によると、サイバー作戦全体を統括する総参謀部第3部(技術偵察担当)は北京市内にあり、要員13万人。アメリカへのサイバー攻撃は上海市内の部隊が担当し、日本への攻撃は山東省の青島や済南の部隊が担当しているという。

「サイバー戦争」は既に始まっている。第一段階は、企業の先端技術や防衛技術、政府の機密情報を奪うという平時の情報戦争だ。

今年8月明らかになった三菱重工業やIHIなど防衛産業への攻撃がそうだ。三菱重工業の場合、研究・製造拠点が外部からの不正な侵入でコンピュータウィルスに感染し、潜水艦や原子力発電プラント、ミサイルなどに関わる機密情報が漏洩した可能性が高い。

10月には衆院の公務パソコンから衆院の全議員480人のIDとパスワードが流出、15日間にわたってメールが閲覧できた。公設秘書なども入れれば衆参関係者2千人以上のパスワードなどが盗まれたという。

防衛産業、国会への攻撃はともに、コンピュータを遠隔操作する画面に中国語の簡体字が使われ、中国が発信元と見られている。

アメリカに対してもこうしたサイバー攻撃が頻繁に行われており、中国はアメリカの経済機密や防衛技術を不正に取得し、経済的・軍事的に優位に立とうとしている。

第二段階としては、有事にあたって軍事的な情報インフラや、交通・電力・金融など社会インフラを破壊し、現実のダメージを与えるサイバー戦争がある。

これも実際に起こっており、08年にはスペインの民間航空機がウィルスに感染して墜落、乗客乗員172人が死亡した事件が起こった。2010年にはイランのウラン濃縮施設が攻撃されたが、イスラエルが関係しているとみられる。

米軍は人工衛星が「目」の役割を果たし、陸・海・空軍、海兵隊などが情報を共有しながら統合運用されている。この情報システムを破壊することが、中国のサイバー部隊の最大の目的だ。

実際、人民解放軍所属のハッカーが07年から08年にアメリカの人工衛星2基を攻撃していたことが今年10月明らかになった。

アメリカ政府は今年7月、「サイバー攻撃によって死傷、破壊が行われた場合、軍事報復の対象になる」という見解を出している。

すでに始まっている「サイバー戦争」に対して、捜査要請だけしてうやむやにする日本政府の対処はあまりにも生ぬるい。野田首相は12月の胡錦濤国家主席との会談で、「サイバー攻撃を続けるならば、報復も辞さない」と強く抗議すべきだろう。

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