日本では野田佳彦首相が交渉参加を表明したTPPの是非が議論の的になっているが、アメリカにとってTPPなど太平洋地域での影響力強化は、拡大する中国への対抗策でもあるといえる。

ハワイでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会談に続いて、オバマ米大統領は19日までに、シーレーン防衛を念頭に米軍拠点の招致が決まっているオーストラリア、正式初参加となる東アジアサミットが開かれるインドネシアを相次いで訪問する。

クリントン国務長官が米フォーリン・ポリシー誌への寄稿の中で、アジア太平洋を関与すべき最重要地域の一つに位置づけたが、今回の大統領歴訪はアメリカの同地域でのプレゼンスを高める重要な機会となる。

アメリカがアジア太平洋への関与を強める背景には、中国の覇権拡張主義への警戒感がある。米議会では中国の為替操作を制裁する法案が上院を通過するなど、中国に対する不信感が高まっているが、その中にあってTPPの枠組みも、成功すれば中国を牽制する一つのカードともなる。

背景にあるのは、自由主義国でつくった市場の枠組みに巻き込むことで、中国に改革を促すことができるという見立てだ。

米CSIS(戦略国際問題研究所)上級アドバイザーのアーネスト・ボウワー氏は、オンライン・メディア「ザ・ディプロマット」への寄稿の中で、「最終的には、より包括的な経済統合のモデルに中国を参加させるための言い分を示すことが重要だ。自分の思い通りになるフォーラムだけに参加するという、アジア太平洋を分裂させかねない構造的な対立を生む行動を、中国に止めさせることだ」と述べている。

環太平洋の自由主義国の結びつきを、経済を通して強めることで、拡張する中国に対抗するための手立てとするという意味合いも、TPPにはある。

「日本市場を奪われる」という趣旨の批判が目に付くが、中国の覇権拡張主義へのバランスは、日本が周辺国と共有する国益なのだから、アメリカのイニシアチブの背景にある地政学的な観点にも目を向ける必要があるだろう。

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2011年11月9日付本欄 TPPは日本の経済成長モデルを問うている

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=3245