許された男は彼女の前で号泣したという。7月31日、「目には目を」の刑を執行される寸前のことだった。3日付毎日新聞および英紙「The Telegraph」(電子版)より紹介。

イラン人男性(30歳)は2004年、大学の同級生アメネ・バフラミさんに再三、求婚したが断られ、腹いせにアメネさんの顔に硫酸をかけて失明させた。アメネさんは自分が受けた被害と同様の被害を相手に負わせるイスラム法(シャリーア)の「同害報復刑(キサースqesas)」の適用を求め、09年に刑が確定。アメネさんが男性の目に硫酸をたらして失明させることになった。

刑は5月14日に執行される予定だったが、国際人権団体が13日、「非人道的」として刑の執行中止を求めるなどしたこともあり、いったん延期。7月31日に執行される予定だったが、直前になってアメネさんが中止を決めた。

報道によればアメネさんはこう話した。

「この7年間、硫酸をかけた者はキサースの罰を受けるべきだと思い続けてきました。でも私は今日、自分の権利を行使して彼を許しました。神はコーランの中でキサースを説かれましたが、キサースより許すほうが立派なことだとも説かれています。私のしたことは国のためでもあります。いろんな国が、私たちがどうするか見守っていましたから」

イスラム法の刑罰は、不倫を犯した女性が石を投げて殺されるなど、人権侵害的だとして西欧から非難されることが多い。イランでもしばしば同害報復刑が言い渡されるが、賠償金に変えられるケースも多く、男性は刑の代替措置として20億リアル(約1800万円)を払うことになった。

アメネさんの母は語った。「娘を誇りに思います。彼を許すことができたアメネは強い子です。おかげで娘も私たち家族も心の平安が得られることでしょう」。自ら求めた報復を思いとどまり、勇気を奮って相手を許したアメネさん。彼女の両目は光を失ったが、心には消えることのない光がともったことだろう。(司)