ドイツのメルケル政権は6日、国内にある17基の原子力発電所を2022年までにすべて止める政策を閣議決定した。脱原発を求める国内世論に屈した形だが、この政策転換は、ドイツのみならずEUそのものを衰退させる可能性がある。

まず、ドイツでは、脱原発で産業向け電気料金の約10%の値上げが見込まれている。基幹産業の自動車業界では1台当たりの生産コストが日本円で約22000円増えるという試算があり、米国や中国との電気自動車の開発競争でも後れをとる可能性が出てきた(7日付日経新聞)。企業の生産拠点の海外移転も加速しそうだが、EU経済を牽引するドイツ経済の失速によって、EU経済全体の衰退も懸念されている。

電気料金が高くなる理由は、火力発電を増やすためであり、燃料となる石炭や天然ガスを輸入しなければならない。天然ガスはロシアに依存する可能性が高いが、ロシアはガスの供給を止めてヨーロッパ諸国を牽制してきた過去がある。つまり、他国へのエネルギー依存を高めることは、他国に生殺与奪の権を握らせることを意味する。また、ドイツは現在も隣国のフランスやチェコから電力を輸入しているが、その電力は原発によってつくられているという矛盾を抱える。

日本では、「ドイツの脱原発の決定は、日本をはじめ、世界に『福島以後』の社会のあり方を問うている」(7日付朝日新聞)などの論調も見られるが、発電量全体の3割を原発が占める国内のエネルギー事情を考えれば、脱原発は国を滅ぼす道である。有力な新エネルギーの実用化が実現するまでは、日本は原発を手放してはならない。(格)