米イラン覚書は「アメリカ有利の内容」だった ─ トランプ外交への批判の空騒ぎを検証する

2026.06.20

画像:覚書に署名するトランプ氏(米ホワイトハウスのYouTube動画より)。

《ニュース》

アメリカとイランの両首脳が署名した覚書をめぐり、ヒステリックにも見える反応が多数見受けられます。その多くは「アメリカが譲歩し、イランが勝利した」という言説であり、トランプ米政権の責任を問う声すら広がっています。

《詳細》

トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領がこのほど、戦闘終結に向けた14項目の覚書に署名しました。最終合意は今後、最大60日かけて交渉し、その期間は延長も可能としています。

覚書には、(1)恒久的な戦闘の終結、(2)ホルムズ海峡封鎖の解除、(3)イランは核兵器を開発せず、保有する濃縮ウランを現地で希釈化、(4)イランに対する凍結資産の解放、(5)アメリカと地域パートナーがイランの復興計画を策定し、3000億ドル(48兆円)規模を確保、などが盛り込まれました。

ホルムズ海峡の封鎖が終わるという安堵の声が広がる一方で、特に(5)の部分である「3000億ドルの復興支援」が物議を醸し、"アメリカは敗北した"といった言説が左派を中心に広がっています(イラン側もプロパガンダの一環として拡散)。しかし米政権が説明するように、あくまで民間資金の活用を軸としており、アメリカの税金が投入されない上に、イランがそれらを手に入れられるか否かは「アメリカの意向に沿った交渉妥結次第」であって、前払いではありません。

また、アメリカがイラン作戦の最大の戦略目標としてきた「非核化」についても、「覚書の内容はオバマ元大統領が結んだものとほぼ同じであり、軍事介入は何だったのか」と各方面から批判されています。ところが実際には、いくつもの違いが見られます。

まずオバマ政権とは異なり、米イスラエルの連続した攻撃により、イランの核物質は地下に埋まっており、イラン側によると、それを掘り返すことができないといいます(トランプ氏が核問題で合意してもしなくてもよいと言ってきた理由)。さらに、ミサイルなどを生産するイランの軍事産業も壊滅的打撃を受け、「イランは戦闘最初の数週間で核を開発することはできない状態」に追いやられました(加えて、イランの代理勢力も一連の攻撃で弱体化)。これらは、弱腰外交を展開したオバマ政権とは根本的に違う点です。

多くの左派メディアが広げている"イラン勝利論"についても、もしイランが本当に勝っているのであれば、ホルムズ海峡を封鎖し続けてトランプ共和党を追い込み、中間選挙で敗北させ、同政権をレームダックに追い込む選択がとれたはずです。にもかかわらず、"最終かつ唯一"の切り札であった海峡の封鎖を解くことに同意したこと自体が、石油の輸出が断たれたイラン側も、経済・財政的に追い込まれていたことを意味します(すでにトランプ氏は先般の訪中で、中国との間でイランの核保有及びホルムズ海峡の軍事利用化の反対で一致し、イランへの武器支援も行わないことにも同意させ、イランの外堀を埋めていた)。

しかもイランがホルムズ海峡の封鎖という伝家の宝刀を抜いた結果、世界は海峡の依存度を下げる方向にシフトしつつあります。トランプ政権からすれば、海峡封鎖の解除により、世界経済を一旦安心させつつイラン側の唯一のカードを封じ込めた上で、再度難しい交渉に踏み込んでイランを追い込んでいく環境が整ったわけであり、長期的には、海峡封鎖のカード自体も弱体化されていきます(それに対するイランの有効な対抗策はない)。

また「イランの凍結資産の解放」も、イランの非核化に関してアメリカが完全に納得する合意が成立し、その執行が確認された場合に初めて実行されるもので、イラン側に事前に何らの経済的利益を与えるものではありません。

本合意に盛り込まれているものは、総じて「アメリカがイランの非核化で納得する条件を、イラン側がのんだ後に初めて発効される」条件になっているものばかりです。海峡封鎖を解かせるために、「60日間だけはイランが石油などを輸出でき、その代金を受け取られるようにした」こと以外には、アメリカは実質的には譲歩していません。

つまり「海峡封鎖を解いた上で停戦を60日間延長しただけ」というのが今回の合意の本質であり、アメリカは新しい環境の下で最終目的(イランの非核化)に向けて実際にはハードな交渉を展開していく(条件をのまなければ大規模な戦闘再開)ことが想定されます。

その意味で全体状況としては、形勢はアメリカ有利に運んでいます。

《どう見るか》

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タグ: 中国  外交  ホルムズ海峡  アメリカ  中間選挙  覚書  イラン 

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