野田佳彦首相は28日、衆議院本会議で所信表明演説を行い、復興増税の必要性を強調した。東日本大震災にまつわる話を用いて情に訴える内容だったが、増税すれば被災地を含めた日本経済全体が大きなダメージを受けることを理解していないようだ。

「被災地の街や暮らしを元どおりにし、復興に向けて歩む道を確かなものとしていくためには、少なくとも5年間で20兆円近くが必要になると試算されています。これだけ巨額の資金は、国会が決断しなければ手当てすることはできません」

「復興財源案では、基幹税である所得税や法人税、個人住民税の時限的な引上げなどにより、国民の皆様に一定の御負担をお願いすることとしています。国家財政の深刻な状況が、その重要な背景です」

こうした主張は、増税して自分たちの権限拡大をもくろむ財務省の言い分そのものだ。その極めつけは、野田首相の以下の言葉である。

「今日生まれた子ども一人の背中には、既に700万円を超える借金があります。現役世代がこのまま減り続ければ、一人当たりの負担は増えていくばかりであり、際限のない先送りを続けられる状況にはありません」

これは、「国民一人当たり700万円の借金を背負っている」と訴え、国民に「そこまでマズイなら、増税も仕方がない」と思わせようとしているのだ。しかし、ここにはウソがある。日本の国債は90%以上を日本人が購入しているが、これは政府が国民から借金していることを意味する。正確には、「国民一人当たり700万円の資産(債権)を持っている」のである。

元財務官僚の高橋洋一氏が近著『財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社)で、「日本には米国の4倍にもあたる650兆円の資産がある」と指摘するように、今の日本に増税は必要ないし、してはいけない。過去を振り返っても、増税後の国の税収は落ち込む一方であり、そもそも、税収を上げるのに必要なのは経済成長である。

首相の所信表明を聞いてもっとも喜んだのは、おそらく財務官僚だろう。(格)

参考記事

2011年4月号記事 日中再逆転 ~日本モデルが世界を制する日~

インタビュー「経済成長で多くの問題が解決できる」 元財務省、嘉悦大学教授 高橋洋一氏

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=1417