米シンクタンク「パシフィック・フォーラムCSIS」のブラッド・グロッサーマン調査部長がウェブ国際誌「ザ・ディプロマット」で、「中国は軍事的に挑発し、アメリカを財政破綻させようとしている?」という論文を書いている。以下、要約。

  • 米ソ冷戦はアメリカがソ連を財政破綻させようとした戦略があったといわれる。経済的な優位に立ち、アメリカがソ連に軍拡競争を仕掛け、ソ連を消耗させたというものだ。
  • 中国は同じ戦略を採り、アメリカが乏しい財政を国防に振り向けるように仕向けている。
  • 乏しい財政の中で、アメリカは優先順位をつけなければならない。ゲーツ国防長官の懸念は、長期的に軍備を強化する戦略なしに、その場しのぎの決定でアメリカの戦力を弱めることだ。
  • 中国は軍備拡張に全力を挙げている。07年には人工衛星を打ち落とし、今年1月はステルス戦闘機の飛行実験を行った。中国があえて軍事的な脅威を見せつけるのは信じがたいことだが、実際に実行している。
  • 同フォーラム代表のラルフ・コッサは、「中国が空母を運用できるようになれば、アメリカは、中国が1984年のソ連と同等の地位に立ったことを祝福しなければならなくなる」と指摘している。
  • 予算不足でアメリカに亀裂が入り始めている。米ウォールストリート・ジャーナル紙は社説で「超大国であり続けることと、福祉国家であることと、どちらかを選ばなければならない」と書いた。それこそ新しい冷戦の相手が私たちに迫っていることだ。
  • 米軍の縮小は避けられないが、戦力を落とすべきではない。同盟国との協力関係は戦力を何倍にもする。同盟が強くなるほど、同盟国の防衛にアメリカが関わるというシグナルを敵対国に送り、抑止力になる。これがアジア太平洋の安全にとって最も重要な戦略である。

グロッサーマン氏は、日本が90年前後から自信を失い、内向きの「隠居国家」になったとして嘆いている知日派の識者の一人。この論文はアメリカでは常識論だが、日本のメディアではこうした議論が出てこない。当然日本としては、日米同盟を強化しつつ、国防体制を対中国・北朝鮮向けに再構築するしかないのだが、今の「ポスト菅」をめぐる局面でもそんな議論は一切ない。最重要のテーマを無視する中で首相が決まることほど、国民にとって不幸はない。(織)