6日付朝日新聞で、福島第一原発の事故で避難を求められている計画的避難区域の外側でも年間の積算放射線量の基準値20ミリシーベルト(mSv)を超える地域があるとして、住民の不安を報じている。

20ミリシーベルトは、国際放射線防護委員会(ICRP)が1年間に浴びて問題のない線量を「有事は20~100ミリシーベルトの範囲で定める」と推奨しており、日本政府は厳しい値のほうを選択した。

この100ミリシーベルトは、同委員会がこれ以上になると「がんになる確率が0.5%増える」と見解を示した数値。広島・長崎の原爆で生き残った約9万4千人に対する追跡調査に基づくものだ。

ただ、0.5%のがんのリスクは、受動喫煙や野菜摂取不足と同程度の危険性。この点からすれば、積算放射線量が100ミリシーベルトの地域であっても、即座に避難しなければならないわけではない。20ミリシーベルトなら、なおのことだ。

福島第一原発から20キロ圏内の警戒区域であっても、年間の積算放射線量が20ミリシーベルトに満たない地域は残されている。これを一律に立ち入りを禁じ、家畜も処分させるというのは、何かあったときに追及されたくない政府の責任回避策だろう。

放射線に対する恐怖心を和らげるために知っておきたい知識として、「低いレベルの放射線であればむしろ健康にいい」という説がある。米ミズーリ大名誉教授のトーマス・ラッキー博士が08年に発表したもので、広島・長崎の8万人余りの被爆者を調査。「がんの死亡率は、約20ミリシーベルトの被爆線量であった7400人のグループで著しい低下が見られた」ことなどが明らかになった。

ラッキー博士は「すべての放射線は有害という考えは間違っている」とするばかりか、「1回の放射線照射によって生涯の健康増進がもたらされる」と低いレベルの放射線の効用を強調している。考え方としては、日本全国にあるラジウム温泉やラドン温泉と同じ原理だ。

放射線のリスクは実はまだまだ分からないことが多い。こうした情報を共有したうえで、警戒区域や計画的避難区域であっても、各人が自分の判断で避難するかどうかを決めるほうが望ましいだろう。(織)